THE SMALLEST RESORT in Okinawa Island
フォールームス誕生までのストーリー
宿にいたる旅 〜ぼくにとって、それは島特有の文化=生きた「芸能」ということでした。〜
いままでいくつの島を旅してきたでしょうか。
よくは覚えてはいません。
新潟の豪雪地帯で生れた自分が、いったいなぜ南の島に惹かれるのか。
人に尋ねられれば「ないものねだりですよ」と笑って誤魔化してきたけれど、
実際のところは、「よくはわからないなぁ…」というのが本当です。
そんな訳の分からない思いにそそのかされて東南アジア、南太平洋、カリブ海、
メキシコ湾、インド洋、アフリカ沿岸、日本の南西諸島…と泊まり歩いてきました。
趣味と仕事。半分半分。
行きたくなると、もうたまらない。
好きになると、その対象について人間、詳しくなっていくものです。
島好きが高じて、広告やテレビといった仕事の依頼が来ることも何度もありました。
旅をすれば、宿に泊まります。
南の島の宿は様々。
すぐそこにある浜の潮風が吹き込む、隙間だらけのオンボロ・バンガローもあれば、
夕刻ともなると次々とロールスロイスが到着する上流階級御用達のホテル、
島をまるごと買切った老ヨットマンが経営する、この世の果てに建つような宿…。
いく先々で出会う多様な宿は、それぞれが別世界、小さな宇宙のようでした。
そうこうしているうちに、自分の好みの宿というものがはっきりしてきます。
分不相応に高価なのは嫌だな、とか。
断然景色が良くなきゃ、とか、大きなホテルはどうも…とか、なんだかんだ。
旅慣れるにつれて身勝手な「天狗」にもなっていったのでしょう。
しかし、
一方では、世界のどこにもなさそうな自分勝手な理想の宿というイメージが、
どういうわけか、固まりつつありました。
好きな旅先も、同時に、次第に絞られてきました。
自然が美しい、ことはもちろんですが、人間の力を感じられる場所がいい、と。
ぼくにとって、それは島特有の文化=生きた「芸能」ということでした。
さらには、やはりアジアの文化圏。
「黒髪の、米を食べる人々」がいる島々は、同じアジア人として心から落ち着きました。
第一に、食事が美味しいですから。
そんなわけで、やはり、というか気に入ってしまったのは、
       
  インドネシアのバリ、そして日本の沖縄でした。
不思議なことに、どちらもマレー語の「チャンプルー」という言葉がある島であり、
強烈な芸能の島々、さらには芸能で使われる音階まで同じでした。
まるでどこかで繋がった遠い兄弟のような島々。
こうしてバリ、沖縄のリピーターとなっていきました。
特に沖縄。
いったい何度、訪れたのか。
行くだけでは飽き足らず、数年前から八重山民謡の師匠について唄を習いはじめました。
すでに五世紀近く昔に、この島々から誕生した唄と
島々の風景を重ね合せて初めて聴いた時、冗談ではなく鳥肌がたった覚えがあります。
  人、料理、芸能、自然、風習。
どれをとっても沖縄は、日本の宝物だと思えてきました。
けれど、
なかなか好きな宿には出会えなかった。
リゾートと銘を打ってはいるものの団体客であふれている大ホテル、
泊まること自体が気恥ずかしくなるような悪趣味なペンション、
気の抜けた日常の延長でしかない民宿。
…大半はがっかりするような宿ばかりです。
  一方、これまで旅して来た場所や国には、
素晴らしい宿がいくつもありました。
セイシェル諸島の離島、椰子の大樹に覆われた「デニス・アイランド・ロッジ」。
ターナーの夕陽が見えると称えられるバルバドス島の「サンディーレーン」。
カリブ海の小国セントビンセント&グレナディーンの伝説的な島ホテル「P.S.V.」。
バリ島の古い小ホテル「タンジュン・サリ」。屋久島いなか浜にある、あの「送陽邸」。
思い返すだけでも、旅の余韻がよみがえる名宿の数々。
沖縄にそれがないのなら、
そんな自分好みの宿を、生意気にもこしらえてみたい、と思いました。
もちろん、「自分ができる範囲で」という
すこぶる手前味噌な条件付きではあるけれど…。
 
では、どんな宿がつくりたいのか? 〜泊まる側の論理でこしらえた〜
旅の印象は、宿で決まると思います。
そして宿の印象というと、ぼくにとっては、宿そのものとそれを作った人でした。
大袈裟に言えば宿をはじめた人間の、人生観だとか、世界観。
そんなものがギュッと凝縮されている宿。
不思議なことに、いま思い出すと、好きな宿というとその主の顔が思い浮かぶのです。
つまりは、「人の顔が見える宿」。
こじんまりとした、趣味の良い、小さな島の宿。
民宿でもペンションでもホテルでもない。
強いて言えば「プライベート・ホテル」とでもいうような、新しいカテゴリーの宿。
泊める側の論理ではなく、
泊まる側の論理でこしらえた、わがままな宿…。
それがはたして受け入れられるかは未知数です。
けれど、ぼくと同じような思いを抱き、新しいスタイルの宿があれば泊まりたい
という人は絶対に大勢いるだろう、という確信に近い気持があります。
こうした流れは、きっと、
これからますます大きく太くなっていく、と強く感じています。
FOUR ROOMS
マネージャー

渡邊 修一